≫雨 :1≪


「うわ、アカンやん」

梅雨真っ盛りという言葉がぴったりなどしゃ降りを目の前に、
俺は取り出しかけた折り畳み傘をもう一度鞄に収めた。

「侑士?帰らねーの?」

不思議そうに振り返った岳人は既に雨の中へと踏み出していて、
激しい雨音に対抗するようにそう声を上げた。

「忘れ物取ってくるさかい、すまんけど先に帰っといて」

堪忍な、と手を合わせた俺を見て、仕方ねーなぁと歩き出した背中を校門まで見送る。
嘘をついたせめてものお詫びや。

そうしてから、俺はやっと携帯を手に取った。

「………あ、もしもし?か?」

電話の相手は…俺の可愛え恋人。

世間で言うところの年の差カップルの俺達は、の方が年上のお姉さんで、既に社会に出ている。
それがこうして電話に出られるっちゅーことは、今日の仕事は終わったんやな。
不幸中の幸いやで、ほんま。

どうしたの?何か、あった?』

心配そうな声が聞こえ、これから告白する内容の格好悪さに一瞬ためらいながらも俺は口を開いた。

「いや…あのな、間違えてしもて」

あー…自分の阿呆さ加減が情けないわ。
俺は心の中でため息をつくと、続きを口にした。

「折りたたみ傘と、おかんの日傘」

………言ってしもた。

そう、鞄に入っていたのは紛れもなく母親の日傘で。
俺の記憶に間違いがなければ、それはレースの縁取りが眩し過ぎる代物だったはずなのだ。

「さすがに、レーシィな傘では帰られへん」

俺の神妙な告白をどう取ったのか、は一瞬静かになり…そして急に笑い出した。

『ふふふ…くく…ご、ごめん』

しばらく笑った後にそう詫びたに、俺はわざと非難めいた言葉を返した。

「ほんまやで?俺がこないに困ってるっちゅーのに」
『ごめんってば…ふふ』

ならそうやって明るく笑い飛ばしてくれるて思っとったわ。
俺はやってしもたとしょぼくれていた気分が晴れるのを感じた。

「…でな、」
『うん、傘持って迎えに行くね』

…さすがや、
俺の気持ち分かってしまうんやなぁ。

「おおきに。甘えてしもて、堪忍な」
『何水臭いこと言ってんの!ってば!』

俺の謝罪にそう頼もしく答えてくれたは、どんと胸を叩く仕草が見えるような勢いで続けた。

『じゃあすぐ行くから、寒くないとこで待っててね!?』
「ああ、ほなら部室におるから着いたら電話くれるか?」
『りょーかい!』

そうして会話は終わり、俺は携帯を切った。

「ほな、戻るか」

優しい恋人の到着を待つために、俺は部室へと引き返すことにした。


end.


雨シチュエーション夢粒…続き物になってしまいました…!
次回、ヒロインが氷帝学園に潜入致します(笑)