≫雨 :2≪


「あった!『氷帝学園』!…ここだぁ…!」

に呼び出されてから30分。

携帯で検索しながらなんとか辿り着いた氷帝学園は、
重厚な造りが威圧感を与える門構えで私をひるませた。
雨空が近寄りがたい独特の雰囲気を強めていて、私は思わず息を飲む。

でも、が待ってるし!

「よし!」

掲げられた学校名をもう1度確認して、私は覚悟を決めた。

「お邪魔しまーす…」

踏み込んだ校内は、びっくりするほど広い。
確か、幼稚舎から大学まであるんだよね。

それで肝心の中等部は……
視界の端で案内版を見つけ、駆け寄る。

「えーっと…こっちだ!」

私は先を急いだ。

「…ひゃー…結構濡れたなぁ」

下駄箱なんて、何年振りに見ただろう。
懐かしい思いで一杯になりながら、私は傘を畳んだ。

さっきの地図によると、この校舎を抜けたところに部室棟があるらしい。

は着いたら電話してくれって言っていたけど、こんなこと滅多にないし。

「驚かせたいよね。ふふ…」

校舎内に入れたことで余裕ができたのか、自分でも知らない間に笑いがこぼれていた。
…と、その時。

…!!人の声…!

私は思わず近くの下駄箱に身を潜めた。
悪いことをしている訳ではないのだけれど、なんとなく見つかるのが怖い。そんな心境。

「ですが監督、雨もだいぶ強まっていますし」

聞こえてきたのは凛とした響きのある声。
そして「監督」と呼ばれた人物の声も、これまた渋い深みのある声だった。

「いや…だがそこまで甘える訳にはいかん」

王様と帝王!

我慢できずに盗み見てしまった声の主の姿に、私は瞬時にそう思った。

中学校にはある意味不釣合いなくらいスーツをばっちり着こなした「王様」に、
これまた制服を着ているだけとは思えないほど品の良いオーラを発している「帝王」。

「…監督。あまり水臭いことを仰らないで下さい」
「これはけじめだ」

否応なしに漂う品の良さが、只者ではない感じ。

…氷帝学園って…なんだかすごい…。

頼まれてもいないのに、背中が見えなくなるまで見送ってしまってから、私は我に返った。

いけない、が待ってるんだった!

校舎を抜けたところでもう1度傘を開いて、雨の中へ。
4階建ての部室棟は、すぐに見つかった。

「さて…と」

テニス部、テニス部。
ドアプレートを目で追いながら探そうとして、ひとつだけ明かりの付いている部屋に気付く。

どうやらあそこらしい。

込み上げてくるわくわく感につられて早まりそうになる足をぐっと抑えて、お目当てのドアの前へ。
そうしてから、おもむろに携帯を取り出した。
電話をするのは、もちろん

『…もしもし?か?』

聞こえてきたの声にテンションが上がってしまわないように気を付けながら、

「うん。今、学校に着いたよ」

さらりとそう言った。

『さよか。ほんまに悪かったな、無理言って』
「ううん!気にしないでってば」

それより、私は続ける。

「部室って、校門から見えるあの建物で良いの?」
『…校門から?見えへんやろ、ここは』

…うーん、あと一押し。

「あれ?おかしいなぁ…4階建てのそれらしき建物が見えるんだけど」
『ほんまか?…ちぃとばかし待っとって』

がたんと立ち上がる音が受話器から聞こえ、人が動く気配が目の前の扉の中でする。

『…確か見えへんかったと』

思うんやけど、の部分はガチャリとドアが開く音とかぶって聞こえた。

「…ッ!!!?」
「えへへ。着いちゃった」

眼鏡の奥で真ん丸になった瞳に満足しつつ、私はそう微笑んだ。


end.


忍足侑士編2話目。次回完結予定でございます!
(…そして梅雨は明けた…(笑))
どうかもう少々お付き合い下さいませ♪