≫雨 :3≪
部室のドアを開けたら、そこにがいた。
「…ッ!!!?」
「えへへ。着いちゃった」
してやったりと嬉しそうに笑う顔を見て、瞬時にの悪戯心を理解した。
「…はめよったな」
「うん。びっくりさせたくて」
ごめんね、と謝るを怒ってなんかいない。
むしろ、嬉しいびっくりにほっぺた緩みそうや。
「急いで来てくれたんやな。おおきに」
部室に入るよう促しながら、俺は礼を言う。
「雨で冷えたやろ。コーヒーいれるさかい、そこ座り」
「えっあ、うん。ありがと」
返事がどこか上の空なのは、室内を見回すのに忙しいからなんだろう。
「なんか珍しいもんでもあったか?」
マグカップにお湯を注ぎながら、そう尋ねた。
「珍しいっていうか…の学生生活を垣間見たっていうか…」
言いながらも、の視線はきょろきょろと忙しい。
俺の学生生活…か。
「がここの生徒だったらどんな感じやろな」
思いつきを舌に乗せ、まんざら悪い考えでもないなとほくそ笑んだ。
「な、呼んでみて?忍足先輩って」
「…え!?」
いきなりの頼みには驚いたようだ。
「ええやん。たまには年上役やらしてぇな」
でも、俺も譲る気はあらへん。
「…い、いきなり言われても」
「なんや?先輩に逆らうんか」
「……意地悪」
膨れながらも覚悟は決まったらしい。
「ほら…?」
マグカップを手渡し、続きを促した。
「ありがとう……忍足先輩」
「…」
こりゃ…予想以上にええな。
照れた上目遣いがたまらへん。
「な、。もっかい言うて」
「や、やだ」
「ええやん。もっかいだけ、な」
もう一押し…と口を開きかけた瞬間。
ゴロゴロ…と低く腹に響く音がして、カッと空が瞬いた。
「わー!わー!わー!!!」
「なんや、…雷怖いんか?」
途端に頭を抱え込んで縮こまってしまったに、こっちがびっくりする。
今時子供でもここまでは怖がらんやろ。
「こ、怖い…うわー!!」
再び鳴り響いた雷に、は飛び上がる。
「が先輩後輩ごっこなんてしてるから、雷まで鳴りだしちゃったじゃない〜」
声がほとんど泣き声や。
「ほんならお詫びや。安全な避難場所、知りたないか?」
安全な、という言葉に涙目の視線がすがるように注がれた。
可愛えな、ほんま。
「ここや」
指差したのは俺の腕の中。
「あ、なんやねん。その目付きは」
「だって。どこが安全なのよ」
半べそかきながらそんな白い目すんなや。
ほんま失敬やなぁ。
「どんなことがあっても守ってやるで?のこと」
「…ッ」
「赤うなりおった」
アカン。可愛えからつい苛めたくなる。
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、は反論の口を開きかけ、
「きゃー!!!」
今までで一番の轟音に邪魔をされたようだった。
「よしよし。もう大丈夫や」
反射的に飛び込んで来てくれたの頭を撫でる。
…雷さん、おおきに。
それから数十分。
コーヒーもすっかり冷めてしまった頃にようやく雷は遠のいた。
まあ、その間俺はをたっぷり味わったからええんやけど。
「ほな、そろそろ行こか」
名残惜しいけど、仕方ないな。
俺はを解放した。
「あ、雨もだいぶ小降りになってる」
外に出てみれば確かに雨の勢いは弱まっていた。
…と、聞き慣れた車の音が近付き、俺達の横を通ってそのまま離れて行った。
跡部の迎えの車やな。
「あ!王様と帝王!」
「…は?」
「今後部座席に並んで座ってたの」
本当氷帝学園ってすごいね、と笑うは一体何を見たのか。
「ま、ええわ。なぁ、こんだけ小降りだと傘ひとつで足りると思わへん?」
「…それって相合傘のお誘い?」
「ん?そない聞こえた?」
せっかく二本持ってきたのに、そう言いながらも、は素直に俺の傘に入って来てくれた。
「、今日はほんまおおきにな」
覗き込んだ恋人の表情はにこりと優しい微笑みで。
「たまになら、また迎えに来てあげる」
そんな嬉しい言葉を聞かせてくれた。
「ほんま?じゃあ張り切って雨乞いせんと」
「…前言撤回。今度はレーシィな傘で帰ってください。ひとりで」
「うわ、冷たいわ」
「当然」
の歩幅に合わせて帰るいつもの道。
雨粒が傘で弾ける音がこんなに楽しいのは初めてや。
、ほんまに今日はありがとう。
end.
雨シチュエーション第3話目。やっとこさ完結でございます…!
長々と、雨にかこつけたラブラブ話に仕上がりました(笑)
忍足氏からの愛をたっぷり感じていただければ幸いです♪