≫デザート≪


「は〜食った食ったぁ」

生徒達で賑わう昼休みの食堂。

向かいの席で最後の一口を飲み込んだ岳人が、
満足そうに伸びをした。

「ほんま岳人はからあげ好きやなぁ」

言いながら、さり気なく視線の端で時計を捕らえる。

―――12時40分。

「…侑士、今日もデザート抜くのか?」

そう聞いてきたパートナーは、きっと答えを予想しているのだろう。

「ん?…ああ、せやなぁ…」

それでも考える振りをして、それからこう口にした。

「やめとくわ。もう入る余裕あらへんし」
「そっか。…んじゃ俺購買行って来るわ」
「堪忍な」

食器を手に立ちあがった岳人に手をあわせると、背中を見送る。
そこには(お見通しだぜ)と書いてあって、少しだけ照れくさくなった。

購買で食後のお楽しみを買う習慣が崩れたのは、と付き合い始めてから。

「ほなそろそろ行くか」

長針がもうすぐ9を指すのを確認すると、俺も立ちあがった。

向かうのは屋上。

階段を昇りきって、ドアに手をかけたところで、12時50分。

………ポケットの中で携帯が震えた。

「もしもし?」
『…あ、?』

待ちわびた愛しい声に、自然と頬が緩む。

「お疲れさん。、今日は何食べたん?」
『パスタ!は?』
「俺は五目焼きそば」
『麺つながりだー』
「せやな」

他愛のない報告、他愛のない会話。
でも、それがたまらなく嬉しい。

社会人であるとの、毎日5分間のコミュニケーション。
これが、俺の新しいデザートになっていた。

『あ、そろそろ時間だ…』
「おっと…せやな。ほな午後もあんま無理せんようにな?」
『うん、ありがと。も!』

名残惜しさが生んだ一瞬のためらいの後、通話を切る。

―――12時55分。

……ほんま、この時ほど時間の流れが速いことってないわ。

そう思って、既に明日のデザートが待ち遠しくなっている自分に気付く。

「…メロメロやん、俺」

思わず笑ってしまう。

「ごちそーさん」

携帯に小さく挨拶すると、俺は教室に戻るべく屋上を後にした。


end.


どんなデザートより甘い時間。
こんな食後のお楽しみ、いかがですか?