≫五感≪


廊下を隔てて、バスルームの扉が閉まる音がした。

続いて、足音。
フローリングに染み込むようなのは、きっと素足のせい。

ご主人様の足音を聞き分けられる犬のように、
愛しい人が近付く気配に耳を澄ませた。

、寝てへんかったんか?」

心地良い声。

私はゆっくり振り向くと、今度は瞳にを感じさせた。

お風呂上りの
しっとりと濡れた髪と、自らの体温でうっすら曇った眼鏡が色っぽい。

「うん。待ってたの」

さよか、と何気なく呟いて微笑んだの顔は、
私の鼓動を速めるのに抜群の効果をもたらした。

そのまま歩を進めたは、ベッドに腰掛けていた私の前に立つと、
少しだけ身を屈めて私を抱き締める。

の匂いと、体温。

私はなるべくたくさんを感じたくて、背中に回した手をせわしなく動かした。

「コラ、くすぐったいっちゅーねん」

はそう言って笑いながら、私の首筋に鼻を押し当てるようにして、深く息を吸い込んだ。

「…、めっちゃええ匂いする」

それは私の台詞なんだけどな。

私もを真似て、深く呼吸をした。
んん………どうしよう、溶けちゃいそうだ。

……ううん、このままだと、確実に溶ける。

だって聴覚と視覚と嗅覚と触覚だけで、この状態なんだもん。
五感をフルに使ってしまったら、絶対……。



思うが早いか、の唇はもう目前だった。

「……」

私の中に広がる、の味。

ああ、どうしよう。
もう駄目だ。

五感全部に煽られて、私はでいっぱいになる。



後はもう、本能に身を任せるだけ。


end.


え、と………
………なんかちょっと………えっちですか…!?