≫イヤフォン≪
「!そっちあったか!?」
「駄目!は!?」
「あかん、こっちも全部売りきれや!」
土曜日の10時を少しまわった頃、私とはいつも出かける地元の街を走り回っていた。
目的は、2人が揃って夢中になっているアーティスト、の新曲CD。
発売日は木曜で、平日は仕事と部活で忙しい私達は
土曜の朝1番にCDショップに駆け込んだ訳なんだけど……
……結果はこの通り。
「メジャーデビューしてからの人気を読み間違えてたね…」
「せやな…。あー…めっちゃ悔しいわー…」
手に入らないとなると、余計我慢が効かないのが人間の性というもの。
2人してしょんぼりと萎れながら、どこへ行くでもなくただ道を歩いていた。
もう思い当たるお店はないよなぁ…。
「…ん?」
「え?」
急に立ち止まったにつられて、私も足を止めた。
目の前に見慣れない建物がある。
ショーウィンドウから覗いた様子で、そこがCDショップなのがわかった。
「…あれ?こんな所にCDショップなんてあったっけ…」
「…!?、あれ!あそこ!あったで!!」
「え、あ?あーッあった!!!」
人目もはばからず叫んだ私達が見つけたものは、レジ横に置いてあったお目当てのCD。
しかも、最後の1枚!
「いらっしゃいま…」
「こ、こ、これください!!」
「…ありがとうございました〜…」
あまりにすごい勢いに、店員のお姉さんも相当びっくりしたみたい。
なにはともあれ無事CDを手に入れて、私達はほくほくとお店を出た。
「ラッキーやったな」
「うん!CDが呼んでたんだね」
「ほんまやな。…あ、あそこ、ベンチあったで」
CDが買えたら、すぐにでも聴きたいのがファンというもの。
手頃なベンチを見つけて、2人で腰を下ろした。
が鞄からCDウォークマンを取り出し、買ったばかりのCDをセットする。
あー…楽しみッ!
…と、が急に私に手を差し出した。
「ほら」
「…え?」
見ればイヤフォンを持っている。
それも、片側だけ。
不思議に思ってを見上げると、やっぱり不思議そうにしている目にぶつかった。
「…?聴かへんの?」
「聴きたいけど…」
「ほな、一緒に聴かな」
「一緒?…!?」
が聴き終わったら聴かせてくれるものだとばかり思っていた私の耳に、
イヤフォンがそっと差し込まれた。
頬を掠った指先が熱い。
「楽しみは2人で味わうと2倍やで?」
そう言ったも反対側を耳に。
真ん中にプレーヤーを挟んで、イヤフォンで繋がれた状態になった私達。
…なんだか照れる。
Pi
再生ボタンが押され、大好きならしい前奏が溢れ出した。
あ…このフレーズ好き。
思ってを見やると、
『せやな、俺もや』
と目で伝えてきた。
「…」
この感じ。
くすぐったいけど、嬉しい。
やがてボーカルの歌が始まり、曲はどんどん盛り上がっていく。
何時の間にか互いの手を握っていた私達は、イヤフォンを通じて
その全てを共有していた。
素敵な歌詞や音楽に触れる度、握った手に力が込められて。
「…すっごい、良かったね!!」
「ほんま、俺サビの部分で泣きそうになったわ」
いつも以上に盛り上がれたのは、大好きな人と大好きの共有ができたお陰。
それから、どちらからともなく再び再生ボタンが押されて、
素敵な魔法は繰り返された。
end.
大好きな人と分かち合うと、悲しみは1/2、楽しみは2倍、ですよね♪