≫ジャージ≪
風に揺れるのジャージ。
洗濯を終えて太陽の光をいっぱいに浴びたそれをぼんやりと見ていた私は、
ふといいことを思いついて頬を緩めた。
ベランダに出て、するするとした独特の手触りを確かめる。
「うん、もうすっかり乾いてる」
その他の洗濯物はそのままに、ジャージだけを手にして室内へ。
そっと抱き締めてから、顔を埋めるようにして深呼吸をした。
「ん…の匂い」
太陽と洗剤の香りの奥に、愛しい人を見つける。
胸の奥が心地良く疼く感じ。
「あー…なんだか幸せ」
これだけで幸せになれる私は単純なんだろうか。
そんなことを思いながら、今度は袖に手を通してみる。
途端に包み込まれたぬくもりに、背中からに抱き締められたような気持ちになった。
「これも、たまらない…かも」
「かも」だなんて嘘。
その思いが紛れもない事実であることは自分が一番わかっているのだけれど、
恥ずかしさを隠したくて私は呟いた。
床に広がる午後の陽だまり。
の香りとぬくもりに包まれたまま、猫のように昼寝をしてみるのもいいかもしれない。
ジャージを羽織った格好でそこに寝転ぶと、思っていたよりも急激に眠気が襲ってくる。
「ちょっとだけ…ほんのちょっとだけ…」
誰に弁解しようというのか、私はそう言い訳しつつ眠りに吸い込まれてしまった。
「ん…」
それからどれくらい経ったんだろう。
眠る前にはなかった重みに気付いた私は、ふと意識を取り戻した。
「いけな…すっかり寝ちゃった」
視線を動かして時計を探す。
すると、一番初めに視界に入ったのはの寝顔だった。
寝室から運んできたとおぼしき毛布を半分こにする形で、私と一緒に昼寝をしていたようだ。
さっきの重みの正体は、毛布と一緒に載せられたの腕。
「ん…ああ、起きたんか」
私が立てた衣擦れの音で、も目を覚ました。
「ごめんね、ちょっとのつもりがすっかり寝入っちゃって。…今何時だろ」
ごはんの支度しなくちゃ、と身体を起こす。
弾みで毛布がするりと肩から落ちて……とんでもないことに気が付いた。
「あーーーっジャージ!!」
羽織ったまま眠ったことをすっかり忘れていた。
せっかくの洗濯を台無しにするように、無数の皺が刻まれている。
「も、もう一度洗濯しなきゃ…」
すると思わずよろめいた私を、が受け止めてくれた。
「そないな勿体無いこと、せんでええよ」
「え?」
そして、ジャージごとぎゅうっと抱き締められる。
「せっかく付いたの匂い、取れてまうやん」
「…」
首筋にかかる吐息がくすぐったい。
「せやからもう少しこのまま着とって?の匂い、もっと染み込ませたいんや」
「で、でも…」
「なんやったら風呂上りの素肌に羽織って、パジャマにしてもろてもええんやで」
「な…っ」
下心にじみまくりの発言に、鉄拳を食らわせようと振り向いた。
けれどぶつかったのは、意外なほどに真剣な瞳。
「アカンか?そしたら俺、無敵になれるんやけど」
「…そんなことしなくたって、は十分強いじゃない」
だけど…そういうのもいいかもしれない。
「でも、じゃあ…お守りってことで」
「ほんま!?」
うん、と頷く暇も与えてくれずにもう一度抱き締められる。
「これでジャージと一緒に連れて行ってもらえるね、試合」
「せやな。うんと楽しませたるから、まかせとき」
そう言って笑いあうと、ジャージにつけてしまった跡も、不思議と笑い皺に見えた。
end.
忍足氏ジャージ購入後に溢れ出た妄想です(笑)
あー…本気で中身が欲しいです…!