≫隠し撮り≪
「ーお風呂空いたよー」
一番風呂を満喫した夕べ。
タオルで髪を拭きながら、私はリビングのドアを開けた。
「ー?お風呂……あ」
お目当ての人物は、つけっぱなしのテレビの前で……居眠りをしていた。
規則正しい呼吸に合わせて、わずかに上下する肩。
眼鏡の向こうの瞳は静かに閉じられている。
「…?お風呂、空いたよ?」
そっと覗き込みながら声をかけてみたけれど、反応はなく。
どうやら本格的な眠りの世界へ行ってしまったようだった。
「…あ、そうだ」
そこで私はいいことを思いつく。
にやけて笑いが漏れそうになるのを堪えつつ、取り出したのは携帯。
そのまま背面のカメラを向けて……
パシャ!
「くふふ〜やったぁ隠し撮り〜」
画面に表示された恋人の寝姿に、私は小躍りする。
こんなの姿、なかなかレアだよね。
「もう1枚っと…」
パシャ!
「んーいいねぇ♪」
調子に乗った私は再びにカメラを向けた。
すると、
「何してんねん」
「うわ!起きた!」
画面越しに目が合ったのに驚いて携帯から顔を上げると、の一睨みが待っていた。
それから私の顔と携帯を交互に見比べて、全てを見通したという風な笑みに変わる。
「ほーお、隠し撮りかいな」
「え、あ、いや、あの」
こっそりだったことが後ろめたくて、私は動揺する。
「別にええんやで?可愛えのやったことやし?なーんも怒ってへんけど…」
そこでぐっと近づくの顔。
「タダやと思たら大間違いやで」
「!?」
何かを企んでいる時、特にそれで私を困らせて楽しもうとしている時に、
がいつも見せる意地悪気な微笑み。
私は背中に汗が伝うのを感じた。
「さぁて、何してもらおか」
「………」
すると神様が私に救いの手を差し伸べてくれた。
テーブルの上にあったの携帯が鳴り始めたのだ。
「ほら、携帯!……って、なにこれ!?」
「あ、しもた」
手渡そうと取り上げたディスプレイに表示されていたのは、
「着信」の文字と………私の寝顔。
「ちょっと!?」
「あーいやー何や、ほら」
今度はが慌てる番だ。
なにしろ隠し撮りの上に、無許可で人の顔を待ち受け画面にしていたんだから。
「さっき、何て言ってたっけ?タダだと思ったら大間違いとかなんとか」
反撃が嬉しくて、私はふんぞり返らんばかりに強気に出る。
そしての反省を期待した。
…のだけれど。
「せやせや。タダじゃあ済まされへんな。せやから…」
反省の欠片も見えない、怖いくらいの笑顔。
「がもうあかんっちゅーくらい、体でお返しさせてもらうわ」
「!?!?」
こうして、どう転んでも私の負けは確定した。
end.
私の携帯にも、ジャンプなどから隠し撮った忍足氏がぎょうさん…(笑)