≫カラオケ≪
との初めてのカラオケ。
それが個室に入って約15分で、忍耐の限界に達するとは。
ちょうどの歌が2曲目に突入したところだった。
「…、ちょっと」
「誰にも会えない顔なのに〜…ってなんや?ここからええとこやねんけど」
しぶしぶ画面から目を離し、こちらを向いたに一言。
「声がやらしいんですけど」
「…は?」
「だから、声が、やらしい!!!」
ビシッと指を突きつけ指摘する。
「…な、なんやねんなイキナリ…」
目を丸くするに、自覚はなかったのか…とこっそりため息をついた。
でも負けちゃいけない。
これ以上腰砕け状態にならないためにも、しっかり言っておかないと。
「、声にフェロモン混ぜ過ぎ!囁き過ぎ!吐息で歌い過ぎ!」
ここで1度息を吸い込み、とどめの指摘!
「特に、低音が危険ですッ!!!」
「き、危険て…どうすりゃええねん」
すっかり私の勢いに呑まれてしまった様子のに、
私は(勝った…!)と思いつつ提案する。
「ということで、男性曲禁止というのはいかがでしょう?」
これぞ低音封じの秘策。
この必殺技さえ出させなければ、動悸や眩暈と闘うことなく
カラオケを楽しめるというもの!
「男性曲禁止?…ええよ?」
…あれ?
随分あっさりと了解したけど…。
「その代わり、がどうなっても知らんで?」
…え?
その意味深な笑みは一体…。
勝ったはずなのに、なんだか釈然としないまま
がリモコンを操作するのを眺める。
イントロが流れ始めた。
「あ、この曲…確かおニャン子…」
!!!
が歌い出したのは、『バレンタイン・キッス』……
……確かに女性曲、ですが……ッ
「は、反則…ッ」
そう洩らすのが精一杯。
さっきまでの囁きや吐息なんて比じゃない位の
艶を帯びた歌声が、個室いっぱいに響いた。
「が言ったんやで?男性曲禁止って」
明らかに楽しんでいる風の声色で、間奏中に意地悪を
言ってくるに、私は情けない声を出すことしかできない。
「だ、だってこんな…わー!うわー!もう駄目だってばー!!!」
…結局、演奏が終わる頃にはすっかり骨抜き状態にされてしまった私。
「情けな…」
力なくシートにもたれかかり、ぐったりしてしまう。
「もう観念してメロメロになったらええやん」
優しく…でもやっぱり意地悪くそう囁きながら覗き込まれて、
私はとうとう白旗を挙げることにした。
「…うん、そうする」
「よっしゃ、素直なええこやな」
むー…その余裕が悔しい。
「よーし、じゃあ今度は私がを骨抜きにしてやるー!」
張り切って、リモコンを手に取った。
「うわ、なんだか怖いんやけど…」
「、覚悟!!」
マイクを突きつけると、今度は打倒作戦を実行すべく、私は立ち上がった。
end.
………これは実話です(笑)
バレンタイン・キッスを聴いた時の衝撃は…ものすごかった…。