≫Can You Keep A Secret?≪
土曜日、朝と呼ぶには少し後ろめたくなる時刻。
寝室のドアが微かに軋んで開き、私は目を覚ました。
だけど、ここでうっかり目を開けてしまっては駄目。
代わりに私は息を潜めて、起きたことを悟られないようにする。
すると、静かに近づいてくる人の気配に続いて、そっと覗き込まれる視線を感じて。
「…よう寝とる」
艶のある低音ボイスの持ち主は、忍足侑士。
一週間の仕事疲れがあるんだからと、土曜日の朝寝坊を許してくれる優しい恋人。
「、11時になったで。起きるんやろ?」
たっぷり寝たいとはいっても、せっかくの休日を潰してしまうのは勿体無い。
そこで私はさらなるわがままを発揮して、に目覚まし役もお願いしていた。
「…うーん、起きひんなぁ」
ごめん、。
もうちょっとだけ寝た振りさせて?
じっと我慢していると、今度は頬に指が触れて、顔にかかっていた髪をそっと梳かれた。
「…? 起っきの時間やで?」
指先の感触が心地よくて、思わず睫毛が震えそうになったけれど、なんとか堪えた。
私が猫だったら、確実に喉を鳴らしていたと思う。
危ない、危ない。
「疲れとるんやなぁ…ほんまに」
そう呟く声が聞こえたと思うと、ベッドがぐっと沈んだ。
が添い寝の体勢で、忍び込んできたのだ。
……これには、ちょっと動揺。
なかなか起きない私の背中に手が回され、ゆっくりと動き始める。
「寝坊助さん? そろそろ起きんと、お昼になってまうで」
の手のぬくもりが気持ちよくて、逆に寝ちゃいそうだよ…。
そんな罰当たりなことを考えながら、それでも私は目を開けなかった。
あと、少しだけ。
あとちょっとだけ、このくすぐったいような甘えた時間を過ごしたい。
ふと、の手が止まった。
かなりの至近距離で見つめられているのが、空気の動きでわかる。
………………。
この沈黙は、辛い…!
「…可愛え寝顔」
もう我慢できない、と目を開けてしまいそうになった直前、の囁きが降ってきた。
「ずぅっと見てたいとこやけど、そないな訳にはいかへんからな…」
唇を指で撫でられる感触。
「眠り姫には、王子のキスや」
それから柔らかくて少しひんやりした唇で、優しい口付けが与えられて。
「…おはよ」
とうとう、私は目を開いた。
照れて伏し目がちになった視線は、寝ぼけた表情だと思ってもらえるといいんだけど。
「おはようさん、よう寝とったな」
まるで子供にするように頭を撫でられる。
「ご、ごめんね。起こすの、大変だったでしょ」
良心が痛んで思わずそう詫びた私に、
「ん? ええねんて。目覚まし役なんて、恋人の特権なんやし」
そう言っては笑った。
そしてベッドから抜け出すと、笑顔のまま私を振り向いて言う。
「コーヒー飲むやろ? 用意しとくな」
「あ、うん。でも自分で…」
そこまでさせたら悪い。
慌てて起き上がろうとした私を、の手が制する。
「せやからええねんて。着替えてからおいで」
「…ありがとう」
どうにも私に甘い気がする恋人が寝室から出るのを見届けて、私は呟いた。
「特権、かぁ…」
これじゃ特権乱用だよね。
「でも…」
に触れられた頬や背中、キスを受けた唇から、彼のぬくもりを反芻する。
一緒に浮かび上がる、への愛おしさ。
「、ごめん」
やっぱりこの秘密は明かせそうにないよ。
その頃、キッチンでコーヒーを淹れながらがこぼした独り言は、当然私には届かなかった。
「はー…めっちゃ可愛えわ、の寝た振り」
Can You Keep A Secret?
恋人達の小さな秘密。
end.
忍足氏の年上彼女企画サイト様、Dearest youに参加させていただいた作品です。
恋人同士、お互いに内緒の甘くて小さな秘密。
忍足氏と始める一日、満喫していただければ幸いです♪