≫恋の病≪
「…。そのメール、彼からでしょ」
お昼休みに受信したメール。
お箸を置いて確認していたら、同期のにそう指摘を受けた。
「へ!?…あ、ああ、うん。てか、なんでわかるの…?」
「目尻と口角!5ミリずつ下がってる。バレバレ」
ひぇぇ!!
こ、怖い…っ
「本当にって、メロメロだよね。ええと…忍足くん、だっけ?」
「面目ない…」
謝る必要があるのかは謎だったけれど、とりあえず私は頭を下げた。
それにしても……
「ね、私ってさ…変?」
以前から気にしていた疑問を、口にしてみる。
「結構よく、メロメロだねって話されるんだけど」
そう、これが悩みなのだ。
私はの答えを待った。
「まあ……変っちゃ変」
!!
そんなことないよ、の一言を期待していただけに、衝撃は大きい。
の話は続く。
「だってさ、達もう何年目?
付き合いたてならまだしも、メールだけでるんるんするのは夢中過ぎでしょ」
「う……」
私は言葉を詰まらせた。
「じゃ、じゃあさ…るんるんどころかうきうきとかわくわくとか、
挙句どきどきとかしちゃったりするのは…」
「病気ね」
!!
ショック……!
「それってさ、やっぱり相手からしたら、う、うざかったり…すると思う?」
私の悩みはこのことを気にしてのものだった。
ところが、思いきって聞いてみた私に、なぜかの目は据わった。
「あんたねー、結局気にしてるのそこ!?
最大の被害者は惚気に当てられる私でしょ!!」
「ひ、ひぇぇぇ!!ごめんなさいっ」
反射的に身を縮める。
すると一転、はにこりと微笑んだ。
「嘘よ。が忍足くん関係だと、ちっこいことで凹んだり浮かんだりしてるの、
見てるの楽しいもん」
「…本当?」
上目遣いで伺うと、は頷く。
「本当。まぁただ、彼に対してはほどほどに出しておいたほうがいいんじゃない?
恋愛は惚れた方が負けっていうし」
「…そっか…!」
相談に乗ってくれて、アドバイスまでしてくれる友人を持ったことに感謝しつつ、
私は態度を改めなければと反省する。
恋愛は惚れた方が負け…かぁ。
でも、できるかなぁ……?
帰りもちょうどとタイミングがあって、一緒に会社を出た。
白い息に、嫌でも寒さを実感する。
「このところの寒さ、ひど過ぎるよね」
の意見に私も一票を投じた。
「本当!あー…会社、冬季休業とかにならないかなぁ」
「、あんた夏には夏季休業の話してなかった?」
「あれ?そうだったけ?」
寒さで長く感じる道程も、話しながらだといくらか紛れる。
そうこうするうちに駅が見えてきた。
鞄の中の定期入れを探る。
改札に吸い込まれていく人の波に乗って、ふと顔を上げた時だった。
「…えっ」
流れの向こうにがいた。
「なに?どうしたの」
私の視線の先を追って、同期もあっと小さな声を洩らす。
眼鏡をかけてテニスバッグを背負ったの格好は、
写真なんか見せたことがなくてもぴんときたらしい。
「あれ、の旦那じゃない!?」
「…旦那って…」
近付くと、もこちらに気がついた。
に軽く頭を下げて、声をかけてくる。
「そろそろ帰る頃やないかと思ってん。思てた通りやったな。」
待ってた甲斐あったわ、と微笑む。
すごく嬉しい。
嬉しい…けど。
私はさっきのアドバイスを思い出して、どう返していいのか戸惑った。
るんるんとか、どきどきとか、出しちゃ駄目。
「あ、ありがと」
結果、気持ちをセーブして出した言葉はぎこちなかった。
「、ちょっと」
すると急にが私の袖を引き、私だけに聞こえるように囁いてきた。
「昼間の発言、撤回する」
「え?」
私はの顔を見つめる。
「どうやら相方さんもご病気みたいだから」
「それって…」
「メロメロ、バレバレ!」
はにっと笑うと、私から手を離した。
「あ、電車来る!じゃあね、!忍足くんも!」
そしてそのままホームの方へ駆けていってしまった。
「えらい元気のええ姉ちゃんやなー」
背中を見送りながら、が呟く。
その傍らで、私は今聞かされた言葉を反芻していた。
も、メロメロ……。
「ってことは、お互い様の引き分けってことだよね」
「…なん?何の話?」
不思議そうに覗き込まれて、私は笑った。
「恋の病のこと!」
さらに不思議そうな顔になったの手を引いて、私達もホームへ向かった。
end.
お互いにかかって、またうつし合い……恋の病は不治の病(笑)