≫眼鏡≪
「眼鏡よ眼鏡よ眼鏡さん、は何を見ているの?」
お風呂に入るために外されたの眼鏡。
テーブルに置いてあったそれを見つめて、私は呟いた。
週の大半は学校と会社という別の世界で生活している私達。
たとえ週2日の休日をフルで一緒に過ごしたとしたって、
残りの5日間、は私以外を見ている訳で。
「…むう…」
それってなんだか悔しいぞ。
…大人気ないけど。
「よぉし!の見ている世界を体験してやるー!」
なんて意気込んで、ちゃっかり眼鏡を拝借してみた。
「………ふぅん」
レンズ越しの世界は、特にこれといって変化はなかったけれど。
『忍足先輩』
『忍足くん』
『先輩、頑張ってください』
『試合応援してます!』
…なんて空耳が聞こえてきそうな程。
たくさんの女の子達を見てきたんだろうなぁ…この眼鏡。
これって……ヤキモチ、かな。
「嫌だけど」
嫌だけど、止められる感情ではなくて。
ふと、鏡に映る自分が見えた。
眼鏡越しの私。
いつもが見ている私。
…なんだかしょぼくれてるなぁ…。
あ…なんか、へこんできたぞ。
「眼鏡よ眼鏡よ眼鏡さん、もっと可愛く私を見せて…」
「は充分可愛いで?」
「!?」
こっそりおまじないをかけようとした私の後ろから、突然の声。
「それ以上可愛なったら反則や」
「…お、お風呂、出てたの!?」
いつの間に!?
「俺の眼鏡なんてかけて、どないしたん?」
言いながら、私の隣に腰を下ろす。
湯上がりで上気した肌と、しっとりとした髪が色っぽくてドキドキする。
「…え、と…がいつも見てる世界を見たくて…つい」
ごめんなさい、と眼鏡を差し出す。
「ん?別にええけど?」
そうして眼鏡は本来の持ち主の元へ返った。
「…で?」
「え?」
覗き込まれてそう問われたけれど、何のことかよくわからない。
「どうやった?俺の見てる世界」
「…あ、ああ…」
女の子達に妬いて、しょぼくれた自分に落ち込みました。
…なんて、言える訳がなく。
口を開くのが一瞬遅れたことで、の言葉が届いた。
「しか見えてないやろ、俺」
!
それって…。
「毎日何見ててもその先にを見てしもて…ほんま、メロメロやんなぁ、俺」
かっこわる、と苦笑する。
レンズの奥で目が細くなる。
それって、それって、それって。
「俺が見てんのはいつだってだけってことや」
急に真面目な色になった目で見つめられ、言い聞かせるようにそう言われた。
…お見通し。
私の不安も、レンズ越しに見えた?
そうやって、いつも私の欲しい言葉をくれる。
いつの間にか、胸の中の嫌な気持ちも消えていた。
「もっと自信持ってええんよ?俺がのことめっちゃ好きやってこと」
囁きで、さらに溶かされそうになって。
「…なあ」
「え?」
「そしたら今度は俺に聞かせて?の見てる世界」
「!」
「俺だけしか、おらんのとちゃう?」
…ズルイよ、。
眼鏡よ眼鏡よ眼鏡さん、そこまで見せたら反則です…!
end.
忍足氏の眼鏡…これだけでごはん何杯でもいけます(笑)