≫年賀状≪
元日の朝。
ポストに響いたコトンという音を、私は聞き逃さなかった。
「…来た!」
それもそのはず、新年最初のわくわくなこととして、
この時を心待ちにしていたのだから。
こたつから飛び出して玄関へ。
ドアに備え付けられた小さな蓋を開くと、輪ゴムで束ねられたハガキが入っていた。
「年賀状!来たぁ!」
そう、これが私のお楽しみ。
私はこたつに入り直すと、さっそく中身を見始めた。
枚数は20枚とちょっと。
メールにおされて年々減り気味だったけど、今年はまた増えた気がする。
「今年は私も結構頑張ったしね」
出し忘れた人から来ていないか気をつけながら、1枚ずつ目を通す。
学生時代の友達から年賀状のやり取りだけで繋がっている人まで、
近況報告や久々のお誘いなどなど、楽しいものばかりだった。
「……あれ?」
でもそのうち、私の中にひとつの疑問が浮かぶ。
「でも……」
そしてそれは、残りの枚数が減るごとに大きくなっていって、
「……やっぱり、……ない!」
最後の1枚を見終わった時には、確信に変わっていた。
「からの年賀状…来てない…!」
別に出し合う約束をしていた訳ではなかったけれど。
でも、大切な人だし…私は1番に書いたのに…!
「…やばい…結構凹むんですけど…」
たかが年賀状、されど年賀状。
なんだか急にものすごい寂しさに襲われて、私はこたつに潜り込もうとした。
と、その時。
ピンポーン。
玄関で呼び鈴が鳴った。
「……はい」
八つ当たる気はなかったものの、自然拗ねたような声音で応対してしまう。
「あけまして、おめでとうさん」
「…!?」
そのインターホン越しの声に、私は受話器を落としそうになった。
私を凹ませた張本人の、お出ましだったのだから。
「ど、どうしたの?」
ドアを開けると、やっぱりそこにはがいて。
「あけましておめでとうさん」
「あ…あけまして、おめでとう」
戸惑いながらもそう答えた私に、は嬉しそうに笑った。
「よっしゃ、の初挨拶、ゲットや」
「…は、はあ?」
意味がわからずぽかんとしていると、さらに続けて、
「初間抜け顔もゲットやな」
なんて言い出す。
「…!間抜けって…」
「はは、冗談やって。の新年初顔合わせは俺がもらお思てな、突撃したっちゅー訳や」
コートを脱いで上がりながら、どこか得意げにそう言うに、
私は不意にさっきまでのしょんぼりを思い出した。
「……じゃあ、初がっかりもゲットだよ」
「何?どないしたん?」
声のトーンが落ちたことに驚いたのか、が聞き返してきた。
「年賀状、出してくれなかったでしょ」
こたつに乗せられたハガキを見ながら、そう小さく抗議をする。
子供っぽいこと言ってるって、わかってるけど。
…がっかりしたんだもん…。
「」
名前を呼ばれて反射的にの方を向くと、焦点が合わないほど目の前に
1枚のハガキが突き付けられた。
「!?」
「なんや、初びっくりもゲットやな」
の優しい声を聞きながら、改めてハガキを見直す。
それは今年の干支にちなんだ犬のイラストに眼鏡を描き加えた、オリジナルの年賀状だった。
「会いに行くんやから手渡ししたろ思ってたんやけど、なんや寂しい思いさせてしもて……
……堪忍な?」
すまなさそうには私を覗き込み、けれど私の中の萎んだ気持ちは、とっくに消え去っていた。
一度ないと思っていたものが与えられた喜びは、想像以上だったから。
私は年賀状を握り締めてに言った。
「ありがとう!嬉しい!」
「……」
「……え、何?」
お礼を言ったのに、なぜか複雑そうな顔で見つめられている。
「あかん……初笑顔、可愛過ぎや」
「ちょ、ちょっと」
予告なしに抱き締められて、私は慌てた。
「もうこないなったら、初まるごといただきや」
「ば、馬鹿…!」
とんでもないことを言い出したに非難の声を浴びせてみたものの。
「ん?これは初馬鹿ゲットやな」
「……」
全然堪えていないその様子に、どうやら恋人を初堪能させられることは決定してしまったようだった。
end.
年明けアップの予定が風邪で大幅に遅れてしまいました…!
皆様、どうぞ今年もよろしくお願いいたします♪