≫お揃い≪


「なぁなぁ侑士。それ、今流行ってんだって?」
「はあ?」

部室で岳人にそう声をかけられて、俺は思わず聞き返した。

それ、と言って指差されたのは、俺の携帯に付けられたストラップ。
5センチくらいの小さなのぬいぐるみで、別に有名なキャラクターという訳ではない。

ただ、俺にとっては特別なものだった。
なにしろとデート中に見つけて買った、お揃いの品なのだから。

「いや、別に流行ってへんやろ」

ふらりと入った雑貨屋の片隅で、たまたま出会っただけだ。
流行りようがない。

目の離れた、愛嬌のある顔つきが気に入ったとが微笑み、
ほならお揃いで、と購入した。

ちなみにの方はリボンが付いた女の子バージョン。

「あ!俺も知ってます!
 女子生徒の間で、それにリボンが付いたのが流行ってるんですよね!」
「……ほんまか、それ」

鳳からの信じがたい追加情報に、俺は反応した。

せやけど、一体なんで……。

「つーか、それ流行らしたの、お前だろ」
「は、はあ!?」

それまで黙って着替えていた宍戸までが、そんなことを言い出す。

「おっしーとおしこちゃん…だったか?なんかそんな風に呼ばれてたぜ?」
「お、おしこ…」

どないやねん、くらい突っ込んでおくべきところだったのかもしれないが、
そんな気分ではなかった。

「そっか!侑士がそれ付けてんの見て、ファンの子がペアを見つけたって訳だな」
「なんでも、仕入れていたお店では売り切れ入荷待ちみたいですよ」
「まあ、健気っつーか、何つーか」

周囲でのんきに交わされる会話に呆然としながら、
俺は手元のぬいぐるみを見つめた。

とのお揃いのはずが……なんでこないなことになってんねん…!



「…な、なあ、?このストラップなんやけど」

週末のデートで、俺は恐る恐るそう切り出した。

あの日部活で聞いた話は本当だった。
注意して見ていると、と同じリボン付きの…おしこちゃんを
付けている女子生徒のなんと多いことか。

興ざめという訳ではなかったが、ストラップを見るたびにのことが
浮かんで幸せだった頃とは、様子が変わってしまっていた。

もうどうしても「おっしーとおしこちゃん」にしか見えない。

そろそろ外さへん?
そう切り出すつもりだった。

「うん!可愛いよね。本当、買って良かった!」

なんと言ってもとお揃いだし!

少しだけ照れたようにそう付け加えたのはにかんだ笑顔に、
鼓動がわずかに速まったのを感じる。

いや、可愛えのは自分やって。

そう思ってしまったら、もう外そうなどとは言えない己に気付いた。
あかん…どないしよ。

「あ、でも…」

ふとが呟き、俺の携帯を手にした。

「?」

なにやらごそごそといじっている。

「できた!」

じゃーん!と言いながら差し出された俺のストラップには、
のぬいぐるみに付いていたリボンがネクタイ結びで付けられていた。

「きっとこの子達も離れてる時は寂しいでしょ?
 だから、これで少しは紛れるかなって」

……!

「せやな、これで寂しいことないな」

正真正銘、世界でただひとつの大切な物になったぬいぐるみを、
親指で確かめるように撫でた。
柔らかい生地が心地良い。

ほんま、 は天才や。

「そや、の子にも何かしてやらな」

思いつくよりも早く、そっと唇で触れていた。

俺からのキスを贈ったのも、自分ただひとつやで?
そんな思いで。

「あ、ずるい」

と、から思わずといった呟きが洩れた。
そして、あ。と口を押さえる。

…しっかり、聞こえてしもたけどな。

俺はついにやけてしまいそうな頬を引き締めながら、に囁いた。

「なんや、こっちの子もキスが欲しいみたいやなぁ…?」

もちろん、こっちは触れるだけなんかじゃ済まさへんけどな。

半ば押し倒すようにを抱き締める。
その視界の端で、ふたつのストラップが仲良く並んで見えた。


end.


お揃いって、くすぐったくて好きなのです…!
皆様はいかがでしょうか?