≫ポッキーゲーム≪


「せやから言うたやろ?絶対閉めたって」
「…うう…」

勝ち誇ったように胸を張るに、しょぼんとうな垂れる私。

事の始まりは、夕食の買出しに行こうと揃ってマンションを出た時のこと。
近くのスーパーに向けて少し歩き出したところで、私の頭に不安がよぎったのだった。

「あ!部屋の窓、ちゃんと閉めたっけ!?」

部屋の鍵をかけた記憶は鮮明だったけれど、窓をどうしたかがいまいちおぼろげで。

「…窓?閉めたやん、さっき」
「リビングのだよ?閉めてないって!」

の自信たっぷりの返事を聞いても、私の不安は拭い切れず。
逆に確かめずにはいられない気持ちになってしまった。

、ボケんのは早いで?」
「し、失礼ね!ボケてんのはの方!」
「お、言うたな。じゃあ戻って閉まってたらどないする?」
「罰ゲーム!でも負けるのはなんだから!!」

売り言葉に買い言葉。
その結果がこの状況だった。

「ほな、約束通り罰ゲームやな。?」
「…煮るなり焼くなり…どうぞ」

嬉しそうな顔を隠そうともしないに、半ばヤケクソでそう答える私。

あーもー悔しい!!
絶対閉めてないと思ったのに…!

「んー…せやなぁ…ほなら、これ、かな」
「?何?ポッキー?」

突然目の前に差し出されたものは、お馴染みのお菓子の箱。
買い置きから持って来たんだろうけど…。

「何?早食いしろって?」
「なんでやねん」

ちゃうちゃう、と首を振る

「これ言うたらあれやろ、ポッキーゲーム」
「ポ…ッ!?」

ポッキーゲームといえば…ポッキーを2人で両端から食べていく…あれ。
買出しの荷物持ちとか、その程度のことしか考えていなかった私は慌てた。

「そ、それのどこが…」
「ん?罰ゲームの定番やんか」

そう言って微笑むの顔は、完全に意地悪モードに入っている。
こうなったらもう逃げられない。

「…。いいわよ、やるわよ」
「ん。やっぱりはええ子やなー」

そこ、人の頭を撫で回さない!
まったく…何が「ええ子」なのよ。

「ほな、いつでもええで?」

ポッキー片手にじっと見つめられて、今更ながら恥ずかしくなって来た。

「…が先!」

照れ隠しにそう宣言すると、片方の端をの口に咥えさせる。
後は、反対から食べていけばいいんだよね。

「いた、だきます」

ほんの少し躊躇ってから、もう片方を口に入れた。

「!?」

口の中にチョコの味がした途端、座っていたに腰を支えるように引き寄せられて、
立膝でに覆い被さるような体勢になる。
必然的に両手はの肩に掴まる格好で…。

うわーうわーすっごい恥ずかしいんですけど…!

「…ッ」

押し寄せる恥ずかしさと戦いながら、私は甘いお菓子を食べ進める。

もそれに合わせるように反対側からこちらに近づいて来て………
でも、互いの唇までおそらくあと数センチ、といった所でピタと動きを止めてしまった。

こ、ここから先は私から行けってこと…!?

意地悪ーッという心の叫びは届いたのかどうか。

「…」

覚悟を決めて、あとほんの僅かになったポッキーを口に含んだ。

カリ、という香ばしい音。
そしてその後に……

ちゅ。

待っていた、柔らかいゴール。
そこに触れるが早いか、私はぱっと身を起こした。

「はい、おしまい!」

でも、そんな私を追ってきたの視線にはまだ終わりとは書いていなくて。

「…、めっちゃ可愛ええ…」
「え?…って、ん、…ッ」

腰を支えていたはずの手をしっかり背中に回されて、
眩暈がしそうな程甘いキスをされてしまったのだった。


「ポッキー、また買い足そな」

数分後、仕切り直して買出しに向かった私の耳に、の囁きが届いた。

「…ッ結構です…!」
「今度は苺味もええな」
「…馬鹿」

懲りない恋人に、再び罰ゲームをさせられる日は近そうです…。


end.


…キスマニアは私でした…ッ(「キス」コメント参照)