≫プリクラ≪
「なんや中途半端に時間が余ってしもたな」
映画を見終わったのが17時15分。
が時計を見ながらそう呟いた。
「あー…そうだね。夕飯にはまだ早いし、カラオケ行くには時間足りないし」
私も時間を確認して、そう相槌を打った。
「あ、ほならゲーセン行こか」
「ゲーセン?」
予想外かつ久しく縁がなかった響きに、私はを見上げる。
そしてそこにはの笑顔と一緒に、さらに懐かしい単語が待ち構えていた。
「せや。ほんでプリクラ撮らへん?」
「ぷっ…プリクラ…!?」
思ったよりも大きな声を出してしまっていたけれど、はまったく臆せずに続ける。
「と撮ったことないやん。せやから、な」
な、って言われても…!
確かに私が高校生だった頃、プリクラは全盛期といっていいほど流行っていた。
もちろん私も撮ったし、大好きだったけど…!
「ご、ごめん。さすがに恥ずかしいんだけど」
学生という身分でも、10代という身分でもない私にとって、
プリクラなんてだいぶ隔たりのある存在になっていた。
その証拠に、最後に撮ったのがいつなのかすら思い出せない。
しかしも引き下がってはくれなかった。
「恥ずかしいことないやろ。撮影やって個室やし、誰も見てへんやん」
「そ、そ、それはそうなんだけど」
「ほな決まりやな。行くで」
「わー! ちょっと待って……っ」
結局強引に腕を取られた私は、長らく踏み込んでいなかった場所に連行されたのだった。
「……なんか、いっぱいあるんだねぇ、今のプリクラって」
数分後、賑やかなBGMに包まれながら、私は御上りさんのように周囲を見回して呟いた。
設置されたプリクラの機械は、どれも派手な造りで私を圧倒する。
昔ってこんなにたくさんの種類あったっけ…?
「これにしよか」
慣れた様子のに言われるがまま、私も撮影ブースに入った。
「ね、ってよく撮るの?プリクラ」
「よくっちゅー訳でもないけど、ノリで撮ったりすんで。部活の後とか」
「へ〜…」
なんだか、私の知らない「学生」としてのの一面を知ってしまった気がする。
「ほないくで」
「えっ、あ、うん」
なんだか緊張するなぁ……。
カメラのレンズの下に設置されたモニターには、硬い表情の私が映っている。
見かねたからも注文が入った。
「、笑ろて笑ろて」
「んん〜〜……」
意識すればするほど、笑うのって難しいんだってば。
「あかんて、ほら」
するとむにゅ、とほっぺたをつねられて、笑顔というより変顔になったところでシャッターがきられた。
「あっちょっとコラ!」
「ええやんええやん。可愛いで、」
「あのねー…!」
「ほら、次いくで」
お説教はあっさり流されて、再びカメラに向き合わされる。
今の変顔撮影で緊張感から解き放たれたのか、今度はうまく笑えた。
その後も、にリードされる格好で色々なポーズを撮られていき、
『それじゃ、最後の撮影いくよー!』
と機械がアナウンスを流す頃には、すっかり慣れてきていた。
「あ、最後の撮影だって」
次はどうやって撮る?なんて言いながらモニターを覗くと、もカメラに近づいてきた。
「……」
「ん?………〜〜っ」
驚いた。
呼ばれて振り向いたら、間近にの唇が迫っていて。
我に返ったのは、シャッター音が鳴り終わった後。
何が起こったのかわからずポカンとしていると、が嬉しそうに微笑んだ。
「よっしゃ、ちゅープリクラGETやな」
「!?」
ちゅープリクラって……。
「ば、馬鹿ーーーっ!!」
しゃあしゃあとそんなことを言うに怒りの鉄拳を食らわせたものの、効果はあまりないようで。
「跡部達に見せびらかすの、楽しみやわ」
なんて、さらに恐ろしいことを言われた。
「だ、駄目!公開禁止だからね!!」
「あ、ほら、次は落書きせな」
「流すなー!!」
結局最後まで先手を取られっぱなしのまま、プリクラは完成した。
でもびっくりはここまでではなく。
はい、と手渡されたそれを見て、私は思わず叫んだ。
「!? ちょっと、何これ!?」
最後の恥ずかしい写真の横に、『いただきます』の6文字がちゃっかり並んでいたのだから。
end.
プリクラ……いやー本当に懐かしい響きです。
それから自分で書いていてなんですが、ノリで撮ったテニス部のプリクラ…見てみたい(笑)