≫湯たんぽ≪


の体温は高い。

いつだったか、外で手を繋いだ時に気付いたこと。

そしてそれは、ベッドの中、冷えたシーツの上で
抱き締められた時、一番実感できることだった。

「…あったかい…」

ぬくもりに包まれて、私は蕩けそうな幸せを味わう。

「人間湯たんぽやな」

は笑ってそう言うと、さらに強く私を抱き寄せた。
触れる面積が増えて、暖かさがじんわり広がる。

「うー…湯たんぽ………最高……」
一気にまどろみに引き込まれて、私はたまらず目を閉じた。

「…なんや?寝てしまうん?」

その声に微かな寂しさを感じて、目を開けようとしたけれど、
一週間の疲れに支配された身体は睡魔に勝てそうもなかった。

「ほんまはしゃあないなぁ……ええよ、たっぷり寝とき」

………優しい。

そんなの優しさに甘えてばかりじゃいけないという思いが
頭をよぎったのも一瞬で。

直に伝わってくる愛しい体温に頬擦りすると、
あっさり睡魔へ白旗を挙げてしまっていた。

あー…もう、本当に、どうしてこんなにあったかいの…?

「…子供って体温高いっていうよね…」

だから、そう洩らしたのも、まどろみの延長で決して他意などなく。

「それって、俺が子供やってこと?」

でもはそうは受け取らなかったということは、声音でわかった。

失言。

あんな、大の大人でもできないような思いやりを見せてくれるに対して、
今の言葉はひどかったと自分で思う。

お互い問題にしていないとはいえ、「歳の差」という現実が
2人の間に横たわっているのは確かなのに。

「そうじゃなくて…」
思わず目を開けた私が見たものは、……してやったり顔の

………あれ?
傷付けちゃったんじゃないの…?

、目ぇ覚めた?」
「………」

ニコと笑ったの声には、もうさっきの陰りは微塵も感じられない。

これって………はめられた!?

…」

まどろみの幸せを綺麗さっぱり拭われた恨みを込めて名前を呼ぶ。

途端に慌てたのは

「ちゃう、ちゃうで!?気ぃ引こ思て言うた訳やないで!?」
「…どうだか」

ぷいとそっぽを向いた私を背中から包み込むぬくもり。

……あー…これも幸せかも……と、いかんいかん。

「湯たんぽしてくれたって駄目」

できる限り冷たく言ってやった。

一瞬だって、本気で焦ったんだから。
誤解されたんじゃないかって。

「堪忍してぇな…。簡単に寝てしまったら勿体無いやん…せやろ?」

必死に弁解する様子が可愛い…なんて思っている時点で、
実はもうとっくに許してる訳なんだけど。

「なぁ…気合い入れてあっためるさかい…もう堪忍して?」

なんとも情けない声を出されて、もう怒った振りもできなくなった。

「…仕方ないなぁ…じゃあ気合い入れてよ?」

それでもしぶしぶ…といった態度は崩さずに振り向く。
ちょっぴり可哀相だけど、さっきの仕返しだと思えばいいよね。

…と、そんな風に申し訳なく思った自分は、まだまだに対する読みが甘かった。
待っていたのは、妖しい色の瞳と、意地悪さを含んだ囁きだったのだから。

「心配せんとまかせとき?……あっためるんは、得意やから」
「…ッ!」

また、はめられた……!!

上に移動してきたぬくもりが、さっきまでとは別の熱を帯びているのを感じて、
私は安眠が遠のいたことを確信する。

今夜の湯たんぽには、火傷の恐れがありそうです。


end.


冬の冷たいお布団には本当にへこたれそうになります。
本格的な春を迎えるまでは、この妄想で乗り切るぞ…!(笑)